白波瀬編
7
とうとうこの日がやって来た。
新作発表会。
大きなホテルの会場は人がいっぱいで、会場前方に作られたステージもミラーボールが回る室内も、どれもが今まで見た事もない世界で驚きっぱなしだ。
社長に頂いたワンピースを着て、その社長の後ろに隠れるようにコソコソしていると、いつものため息が聞こえてくる。
「全く……お前は美成堂の顔だと言ったはずだ。それなのにコソコソコソコソと人の背中に隠れて、一体何がしたいんだ?」
「すっ、すみません……もう、何だか自分の脳みそのキャパから情報が盛大にはみ出してて、処理出来ないんですっ」
「黙って笑って立っていろ」
「は、はいぃ」
そんな事言われたって、こんなすごい状況の中で笑ってなんていられないわよ! ―――え、笑顔が引きつる。頬が痛い。
ただでさえ御影山社長って目立つし、有名人らしくって会場に到着してから人の視線が刺さって怖いのに、一緒にいる私の身にもなって欲しいわ。っていうか、白波瀬さん、来てないかなあ? 同じ化粧品会社の人だし、もしかしたら会えるかも? って思ってたけど、これだけ人がいると分からないし……おまけに白波瀬さんが会社の代表とも限らないし、きっと参加してるだろうなー、なんて思ってたけどあくまでも希望的観測というか……。 ていうか本当になんでこんなに人が多いのよ!?
なんて、戦々恐々としているうちに、とうとう新作発表会が始まった。
大音響で音楽が流れ、ステージ中央にスポットライトが当たる。ステージ袖から2人のモデルさんが出てきて、会場から拍手と歓声が沸き起こる。
うわあ、綺麗……。
さっきまで怖くて緊張しっぱなしだったのに、もう見蕩れてる。我ながら単純だわ。
次々と各化粧品メーカーのプロモーション映像と音楽が流れ、モデルさんが美しいウォーキングで私たちの前を歩く。
今日、発表会に参加しているのは美星堂を合わせて5社。うちは一番最後だから、次の次。
「秀麗か」
ボソリと社長が呟いて、会場の音楽が変わった。
「次は秀麗の新作、リップグロスです!」
司会者の声と同時にモデルさんが出てきて、拍手がさらに大きくなる。
秀麗もうちと同じでリップグロス。キラキラ光っていて華やかで、モデルさん達が皆、銀幕の中の女優さんのように映る。美成堂が自然な美しさ、本来あるその人の輝きを引き出そうとしたのとは、まさに真逆といった感じだ。これが秀麗――――そんな風に思いながら一瞬も見逃すまいと集中していると、あっという間に秀麗のステージは終わり、いよいよ美成堂の番がきたのだった。
「最後は美成堂です。こちらも新作はリップグロスですっ!」
ふっと照明が代わり、音楽が流れ出す。先ほどまでの華やかで豪華な音楽とは違って、心からほっと出来るような、それでいてウキウキとした高揚感が湧くような――明月院さんが作ったというその曲は、耳にとても心地が良い。
曲に合わせて出てきたモデルさんの愛らしく微笑むその姿を見て、私は感動して涙が出てしまった。
「社長……」
「なんだ?」
「私、今、猛烈に感動してます……」
「そうか」