白波瀬編
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何軒の洋紙店や工場を回ったか分からない。だけどこれという紙がどうしても見つからないでいる。どうしよう……と思っていると携帯が鳴った。表示を見ると社長と出ていて、背筋が凍る思いがする。
「はい」
恐る恐る通話ボタンを押すと、低いけれどよく通る社長の声が、電波に乗って私の耳に届いた。
『印刷所には明後日に入稿する事になったが、どうだ? 紙は見つかったのか』
「それが……まだ」
『まだ、だと?』
「まだです。でも見つけます、必ず!」
『…………分かった。任せたぞ』
「はい」
それだけ言うと電話は切れた。社長のあの間、きっと私が間に合わなかった時の事を考えて、予備の紙でも用意しておくのかもしれない。ってそれじゃ結局手を煩わせてる事になるよね。ああ、もうどうしよう……。
思い悩んでいると再び着信。やっぱりと思い直した社長が何か言ってくるんじゃないかとビクビクしながら表示を見たら、そこにあったのは白波瀬さんの名前だった。
「はい」
『お疲れ様です。白波瀬ですが今よろしいですか?』
白波瀬さんのふわりとした優しい声にふいに涙腺が緩んでしまった。
「は、はいっ! 大丈夫です……」
『どうかされました? 何だか声に元気が……』
どうして見透かされてしまうんだろう。白波瀬さんと出会ってまだ間もないのに、どうしてこんなに……。
「いえっ、あのっ……」
『何かあったんですね。僕でよかったら話して下さい。力になれるかもしれません』
いつもと変わらない優しいトーンでそんな事を言われたものだから、思わず私は全てを吐きだした。社長の気遣いを断って、自分でなんとかすると言ったこと。新しいグロス用に冊子を作る事。それに必要な紙が見つからない事。最後の方はもうなんだか泣きすぎて、しゃくりあげているような状態だった。そんな私の聞き苦しい話を白波瀬さんは、ただ黙って聞いてくれた。