白波瀬編
「ああああああああああああ!!」
思わず大きな声を上げてしまう私。
「な、なななな、なんてこここ、ことをををを!」
「そんなに焦らないで、水那ちゃん」
へ? 今なんて……? 白波瀬さん私の事を水那ちゃんって言わなかった??
「おい、うちの社員に気安く声を掛けるな」
「御影山こそ気安いんじゃないのかな、未来の白波瀬グループ総裁夫人に向って」
「なんだとぉ!?」
「どどど、どーゆー意味でしょうかぁ!?」
動揺する私たち2人を差し置いて、白波瀬さんはいつも通りの柔和な表情だ。
「そのままの意味だよ。父の許可も取ってある。障害は何もない。あるとすれば、ライバル社の社員になんてさせられないって事かな」
「白波瀬……!」
「あれぇ? 悔しいのかな? 御影山、もしかして狙ってた?」
「誰がだ! こんなまな板には興味がない!」
「まな板って酷くないですか!?」
「おい、ちょっと待てよテメェ、なんで水那ちゃんがまな板って知ってんだオラ」
「あ? やんのかコラ」
「やややや、やめて下さーーい! 私がまな板な事なんて一目瞭然じゃないですか!」
「「それもそうだな」」
な、なんなのこの感じは。白波瀬さんってあんな言葉遣いも出来るのね……。いやいやそんな事より、2人はずっとこんな感じで過ごしてきてたのかしら。ていうか! 未来の総裁婦人? 父の許可は取った? わ、私が白波瀬さんと……?
「け、結婚ーーー!?」
改めてその考えに辿り着くと、思わず大きな声が出た。
「嫌、かな?」
その私の反応に、白波瀬さんは困ったような、そしてどこか寂しさすら漂わせながら、遠慮がちに私にそう尋ねる。
嫌、なわけない! むしろ、それはとっても嬉しくて、それで……。
頭を横にふるふると振ると、白波瀬さんは満面の笑みを見せてくれた。
「良かった! 有難う水那ちゃん!」
そう言うと白波瀬さんは、人目も気にせず私を抱きしめた。
「くっそおおおおおおお! 川島ぁ! さっさと俺にも婚姻届を持ってこいーーー!!」
「社長、お相手はいらっしゃるのですか?」
「相手ごと持ってこい!!!」
そんな無茶な、とその場にいた誰もが苦笑して。
私と白波瀬さんはそっと、お互いの手を握り締めた。
もう二度とすれ違ったりしないように。