白波瀬編
8
新作発表の後、社長は私の顔を見ても何も言わなかった。急に消えた事もお咎めなし。それが逆に怖かったけど、ここ数日は何事もなく平和に過ごしている。
「葉月、こっちに来い」
社長室で箒を片手に掃除をしていると、社長が私の事を呼んだ。
「これを正式に渡そうと思ってな」
そう言って社長が取り出したのは―――
「こ、これって……!」
「ああ、採用通知だ」
「! あ、有難うございます!」
そう言ってその紙に手を伸ばそうとしたその瞬間―――――
バタン!
と勢いよく社長室の扉が開いた。
「それはちょっと待ってほしいな」
聞きなれたその声に振り向くと、そこには……。
「白波瀬、お前なにしに来た?」
「し、白波瀬さん!?」
白波瀬さんは秘書さん達に笑顔を振りまきながら入室していた。
「何でお前がここに入れているんだ。ここの警備はザルか!? 受付はどうした?」
「ちゃんと済ませたよ。御影山、僕は天下の白波瀬グループの御曹司なんだよ。入れてもらえて当前だろう」
「何が天下だ。天下は我が御影山グループのものに決まっているだろう!」
な、なんだかとっても不毛だわ。
睨みつける社長の視線を物ともしないで、白波瀬さんはつかつかと私たちに近づいてくる。
「あ、そ。じゃあ天下は御影山グループにあげるよ」
「なに!?」
「その代り」
言うが早いか白波瀬さんは社長の手から採用通知を奪い取り、そして――
ビリビリッ!!
激しい音とともに破り捨ててしまった。