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白波瀬編

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エピローグ




 私たちから遅れる事2年後、御影山社長も実業家の女性と結婚した。
 今日は政財界のパーティーで、4人とも招待されている。

「やぁ、御影山。今期の新作はどうだい?」
「はっはっは、お前に言う事など何もないな。また情報でも盗まれては堪ったものじゃないからな」
「またそんな昔の事を……」
「水に流せるほどの昔の事か? ん?」

 いつもの事ながら一触即発なムードの2人の間に、私は慌てて体を滑り込ませる。

「ま、まぁまぁ。今日はこういう場ですから」
「ほう、随分と偉そうな口を利くようになったじゃないか」
「おい、美成堂の社員だった時なんてたかだが数か月だろうが。それをいつまでも……」

 陽が今にも黒い部分を出しそうになり、私がオロオロしていると御影山社長の奥さまがさっと2人に近づいた。

「いつまでも子供っぽい事やってないの。綾人、ネクタイ歪んでるわよ、みっともない。こっち向きなさい」
「う、うむ」

 完璧な御影山社長も奥さまには頭が上がらないみたい。美しくて頭も切れる奥さまは御影山社長とお似合いの夫婦だ。
 そんな2人を微笑ましく見ていると、陽が私の耳にそっと口を近づけた。

「ね、ちょっと抜け出しちゃおうか」
「えぇ!?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとだけだよ」

 そう言うと陽は私の手を取り、優しく導く。御影山社長はその事に気付いているのに、咎めるような事はしない。

 ――――あの日みたい。


 新作発表会の後、一緒に登った空中庭園。私が告白した場所。
 過去の自分を思い出して思わず赤面しそうになる。

 そんな私の回想を知ってか知らずか、陽は私に向って微笑むと優しい声音で囁いた。




「水那、愛してるよ」






END




作品名:白波瀬編 作家名:有馬音文