白波瀬編
「父の言葉は白波瀬グループにとって絶対ですから。逆らう事は出来ません。でも僕はこの業界が好きですし、それに御影山と競っているのも何だかんだいって楽しいんです。と言っても、あいつは完全に迷惑だと思ってるでしょうけどね」
「それじゃあ……白波瀬さんは……」
「ゲームオーバー。僕が秀麗に出来る事はもう何もありません。だから葉月さん、あなたの事も……」
そこまで白波瀬さんが言った時、私は反射的に彼に抱きついていた。
「葉月、さん?」
「嫌です。私……」
「何が嫌なんですか?」
戸惑いながらも私の肩に手を置きながら、白波瀬さんはそう尋ねてきた。何が? 何が嫌なの? 私は……。
こんな行動に出て、自分でも何がしたいのか、全く分からない。でも―――
「嫌なんです。そんな風に白波瀬さんが悲しむのも」
悲しむのも? それから? それから……!
「こんな風にお別れするのも」
そうだ、私は白波瀬さんとの関係を断ち切りたくないんだ。どんな理由であれ、自分を利用していた事が分かっても。ううん、理由なんて何もなくても、きっと私の気持ちは変わらない。だって、私……!
「好きです」
自然にそう口にしていた。
「え?」
「好きなんです。私、白波瀬さんの事が……」
消え入りそうな声で、それでも何とかそう告げると、白波瀬さんは優しく私を抱きしめてくれた。
「あなたには……本当に……」
驚かされます。
そう言ったあと白波瀬さんの唇が、私の唇にそっと触れた。