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白波瀬編

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「完敗です」

 私の方を見ないまま、白波瀬さんは空に向かってそう呟いた。

「………どうしてこんな事をしたか、聞かないんですか?」

 次いでそう問われ、私は思わず返答に困った。聞きたいに決まっている。でも、聞いてはいけないような気がする。

「あなたは本当に優しい人ですね」

 そんな私を見かねたように微笑むと、白波瀬さんはぽつり、ぽつりと語り出した。

「僕と御影山は幼少期よりずっとライバルでね。最初に2人で行ったレストランがあったでしょう? あの日、葉月さんと御影山がバーから出てきたあの日も、実は僕はあのレストランに居たんです。それで二人の姿を見止めた。御影山があなたみたいなタイプの女性を連れているのが珍しくて、思わず興味を持ってしまったんです。あなたの情報を得る事は簡単でした。そして僕はあなたを‘使える’と判断した。本屋での出会い、あれは僕の計算です」
「…………」

 今度は私が黙って彼の話に耳を傾ける。

「あなたが御影山にとって何か特別な存在になるであろう事は予測できました。あいつとは長い付き合いですからね。だから最初は単純に、あなたを奪って御影山の悔しがる顔を見てやろうとでも思っていたのかも知れません。初めて一緒に食事をした時、うちに来ませんかって言いましたよね。あの時はきっと、そんな邪な思いがあったと思います。でもそれだけでは済まなくなってしまった」
「どういう事ですか?」
「僕も御影山ももう良い年でしょう。未だにに結婚もしなければ跡取りも作らない我が息子に、父の堪忍袋の緒が切れましてね。次の新作発表会で成果を残せなかったら、父の決めた相手と結婚し、そのうえ秀麗も辞めて別の……もっとグループとして利になる会社に移動する事を命じられたんです」
 白波瀬さんはそこまで語ると寂しそうに肩を竦めた。

作品名:白波瀬編 作家名:有馬音文