白波瀬編
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先ほどと同じように一社ずつマスコミや来場者に向けて、新商品をPRしていく。美星堂は最後なので、私が壇上に上がるにはまだ少しだけ時間があった。少しでもいい。僅かでもいいから気持ちを落ち着かせたかった。
『秀麗では今回のリップグロスを製作するに辺り――――』
動揺は収まることなく、時間だけがただ過ぎていく。壇上には既に秀麗の代表が上がっていて、今は社長である白波瀬さんが来場者に向って微笑んでいる。
白波瀬さん、本当に社長さんなんだ……。
事実を実感として理解すると、思わず肩が震えた。ダメ、泣いている場合じゃない。ぐっと堪えようとして、眉間に力を込めた。そんな顔を見られたくなくて目を伏せると、私の手に握られた冊子が目に入った。
私が今からこの大勢の人たちの前で、その魅力をアピールする精神誠意込めて作り上げたもの。ぐっと指に力を込めると、その優しい質感の紙が少しだけ擦れた。
……そうだ、この紙は白波瀬さんが――――。
『罪滅ぼし、かな』
脳裏であの日の白波瀬さんの言葉が蘇る。
そうだよ、この紙を与えてくれたのは白波瀬さんだ。ただ潰したいだけなら、こんな事する必要がない。あのまま私を見捨ててしまえば良かったじゃない! やっぱり白波瀬さんには何かわけがあるんだ。ちゃんと知りたい! 白波瀬さんの口から、全ての理由が聞きたい! それを聞くまでは、落ち込んでなんていられない。
「よしっ」
小さく私は意気込むと、ぐっと壇上を睨みつけた。大丈夫、私なら出来る。
そう言い聞かせて―――。