白波瀬編
「おい、葉月!」
「はいっ!?」
「お前、この男にグロスの話しをしたのか!?」
「は、い……」
「っ……。どういうつもりだ? お前、そこまでしてうちに勝ちたいのか?」
「そこまでして? 別に僕は卑怯な事をした覚えはないんだけどな。葉月さんと楽しく食事をしたりして、仲良くお喋りしてただけだよ。おっと……御影山、そう怖い顔するなよ。僕はあくまでも、会話の中で偶然にも手に入れられた情報を活用させてもらっただけ。そんな風に睨まれる覚えはないんだけどな」
「はっ! そう言う事か、うちの情報が秀麗に漏れてたのは、葉月からだった。という事か」
「ええええっっっっ!?」
何で!? どうして!? 私の所為? 私の所為なの!?
「葉月さん、ごめんね。……騙すつもりじゃなかったんだけど」
「こいつは秀麗の社長、白波瀬陽だ」
「しゅっ、秀麗の社長っ!?」
嘘よ! だって、白波瀬さん、美成堂より弱小だって……あれって、私から情報を聞き出す為の嘘? 優しくしてくれたり励ましてくれたりしたのも、全部嘘だったの?
どうしよう。もう、全然頭が追いつかないよ……!
『間もなく商品説明会が始まります。各社は――――』
司会の人のスピーカーからの音声が、耳の中を素通りしていく。視界はまるで何かで殴られたかのように、ぐらぐらと揺れている。こんな、こんな事って……!
「葉月、おい、葉月!」
社長が私の肩を揺すっている。はっとして視線を上げると、社長が心配そうな顔で私を見ていた。
「アナウンスが聞こえなかったのか? 商品説明会が始まる。行くぞ」
「は、はい!」
白波瀬さんを無視して歩きだした社長の背を、私は必死で追いかけた。そうだ、まだ仕事が残っている。最後までやるって決めたんだから!
ちらりと後ろに視線をやると、白波瀬さんはまだこちらを見つめていた。その姿はどこか諦めたような、そんな風に見えた。
白波瀬さん、どうして……。