御影山編
3
「なんだその顔は?」
社長室の前で、私は御影山社長に睨まれた。
「はあ、寝不足で……」
「そんな事は見れば分かる。俺はどうしてそんなクマが出来ているのかを聞いてるんだ」
「昨日、カレンに借りた化粧品に関する本や新製品の資料を読んでいて、気づいたら外が明るくなっていて」
「ふう。俺は美成堂の社長だ。そしてお前はその美成堂の社員研修を受けている。俺が言いたい事は分かるな?」
「はい……すみません」
怒られて当然。化粧品会社の人間が、こんなひどい顔と肌で出社だなんて、ましてやまだ研修2日目だというのに、自覚がないにもほどがある。
「ちょっと来い」
肩を落としていた私に、いつもよりさらに怖い顔になった社長。次には私の腕を掴んで少し強引に社長室に入った。
「お、おはようございます」
昨日と同じように、秘書の女性がすぐに立ち上がったので、私は慌てて挨拶をした。けど、社長の雰囲気が怖かったのか驚いた顔で固まってしまってた。
それと、部屋の隅に新しい机が用意されていた。翌日には準備されてるなんて、さすがだなあ。
―――なんて感心していると、社長室のソファに投げるように座らされる。
「あのっ、社長。本当に今日の私の顔に関しては申し訳ないと思っています。明日からは分をわきまえた行動をしますから……」
だからもう、そんなに怒らないでよっ!
半分泣きそうになっている私の前に、社長は何やら銀色の箱を置くとおもむろにその蓋を開けた。
「あ……」
そこにはメイク道具がぎっしりと、しかも整然と並べられていて、カレンが持っているメイク道具と瓜二つだった。その中から社長はいくつか取り出すと、無言で私の顎を持ち上げた。