御影山編
「仮にも社長秘書として行動するんだ、そんな顔でうろうろされたら俺の社長としての資質が疑われるからな。今から人前に出られるようにしてやる」
「えっ? 社長がですかっ!?」
「当たり前だろう。化粧品会社の社長がメイクの仕方も知らないで務まるとでも思っているのか?」
なるほど、確かにそうだわ。
って、でもでも! 意外にもほどがある! だって、あの、御影山社長がよ! あの鬼がメイク出来るなんて、誰が信じるのよっ!?
「分かったら大人しくしていろ」
「はいっ」
あまり考えないようにしよう。また顔に出て怒られちゃう。
私は気まずさと恥ずかしさで目をつぶっていて、社長の手が顔に触れるたびにびくびくしてしまった。だけどパフやブラシはとても優しくて、まるでカレンにメイクをしてもらっている時のような心地よささえ感じた。
「―――その不細工な顔をやめろ、もう終わった」
不細工って、失礼な!
私はゆっくりと目を開け、メイク道具箱に据え付けられている鏡をのぞいて目を見張った。
「え……? これ……」
すごい。あまりの変貌ぶりに言葉が出ない。本当にこれが私?
目の下のクマはすっかり消え、その鏡には見た事の無い私の顔が映し出されていた。
「これで少しはましだろう。今日は午後から開発センターに行くから付いて来い」
「はいっ! あの、ありがとうございます!」
「忙しいんだ、俺の手を煩わせるな。本当にお前は手がかかる女だな、質が悪い」
呆れたようにメイク道具を片付け、社長は自分のデスクにドサリと座って仕事を始めた。
私はドアの前で深々と頭を下げ、隣りの部屋へ戻る。