御影山編
「最優秀賞は、美成堂のグロスに決定致しました!」
大きな歓声と拍手とカメラのフラッシュの中、私は思わず隣りに立つ社長に抱きついていた。
白波瀬さんに裏切られたというショックで落ち込んでいたけど、社長に励まされて挑んだスピーチ。頭の中は真っ白で、一体何を言ったのか全然覚えていないのだけど、最優秀賞を取ったんだ!
「社長! やりましたね!」
「そうだな」
「おめでとう、御影山、葉月さん」
社長に引き剥がされた所へ、白波瀬さんがカメラや取材陣の間を縫ってやってきた。
私は一瞬顔が引きつった。
「はは、困ったな。今更言い訳なんて出来ないけれど、葉月さんの助けになりたいと思ったのは本心だよ。美成堂の情報が聞けたのはラッキーだったけど、まあ、それはそれ、折角の情報は有効に使わないとね」
「何が言いたい?」
御影山社長の冷めた声に、一瞬カメラのフラッシュも静かになる。
「僕は葉月さんの事を気に入っている、という事だよ。どうだろう? こんな仏頂面でオレ様な社長の会社より、僕の会社に来ないかな? 一緒に働きたいって言ったのも本当なんだよ?」
「えっ?」
差し伸べられた白波瀬さんの手を見つめ、ゆっくりと顔へと視線を動かすと、いつもと同じように優しい笑顔の白波瀬さんがいた。
「あ、あの……私……」
「断る」
「僕は葉月さんに聞いているんだけど?」
「だから代わりに俺様が断ってやっている。こいつは俺の会社の社員だ、貴様のような腹黒の所へなどやらん」
「随分な言われ様だなあ」
「貴様と慣れ合うつもりは無い。うちの情報が漏れたのはこいつの落ち度だ。お前に文句を言うつもりも無い、それが世の中というものだからな。だが、こいつの所有者は俺だ。俺の許可無くこいつに近づく事は許さん。帰るぞ、葉月」
「えっ? でも、あのっ!」
強く握られた腕はとても振りほどけそうになく、私は猛烈に切られるシャッター音とフラッシュの向こう、少しだけ寂しそうな顔をした白波瀬さんの姿を見て少しだけ胸が痛くなった。