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御影山編

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 新作発表会後、リップグロスは大ヒットすることになった。その後私は正式に美成堂の社員に採用され、晴れて大学卒業と同時に美成堂の新入社員となった。
 卒業するまでも会社に出社して、相変わらず研修を受けていたからもうすっかり慣れたもの。

「おい、開発センターへ行く時間だぞ」
「すみませんっ、今から行きます!」

 そんな訳で、私は今日も忙しく社長秘書となり、新しい商品開発に携わっている。今日は開発センターに社長と一緒に行く予定なのだ。
 バタバタと準備をして秘書室を出た所で行く手を阻まれた。

「わっ、社長! 危ないじゃないですか!」

 私より先に廊下に出ていた社長にぶつかりそうになり、慌てて一歩下がる。
 そんな私を無言で見下ろし、社長はくるりと踵を返すとさっさとエレベーターへと乗り込んだ。
 最近社長の様子がちょっと……いや、随分おかしい。
 エレベーターの中でも無言なのに、何だか落ち着かない感じ。こんな時に限って川島さんは先に車の用意をしに駐車場だし、どうしろっていうのよ。

「はあ……」

 珍しい。社長が人を見下してないため息吐いた。
 物珍しく顔を見てしまうと、視線が合った。
 うっ……相変わらずの美形だな。

「葉月」
「はい?」
「お前はうちに入社して良かったか?」
「は?」

 一体何を言っているんだろう。社長ったら変な事聞くな……。でも、天下の美成堂に入社出来たし、研修中は色々あったけど、会社のブランドとかじゃなくって、一つの商品を作って形にして売り出すっていう事の凄さとか達成感を味わったら、どこだろうと頑張って仕事をする事には変わりないし、すごく楽しい。それに、何より……

作品名:御影山編 作家名:有馬音文