御影山編
私は何も言えなかった。
だって、私を励ましてくれて優しくしてくれていたあの白波瀬さんが秀麗の社長で、知らなかったとはいえ、私はその秀麗にグロスの情報を流していたんだもの。
ガクガクと膝が震え出した。
「ちょっとこっちに来い」
社長の腕を引かれ、私は会場の外へと連れられた。
廊下をさらに奥まで進み、人気の少ないベンチに座らされる。
「社長、あの、すみません……わた、私っ、白波瀬さんが秀麗の社長だったなんて、知らなくて……その、同じ化粧品会社で働いてるって言われて、それで、私不安だったから……すみませんっ」
どうしよう、涙がとまらない―――
ふと、社長の手が私の頭の上に置かれた。
「お前があいつの事を知らなかったのは仕方ない。だが、会社の内情をよく知りもしない相手にべらべらしゃべるのは感心しないな」
「はいっ、私のミスです……」
「お前は反省している。だから、もう二度とこのような事にならないように気をつけろ。終わったことをガタガタ言っても何の解決にもならない。悪かったと思うのなら、商品説明をしっかりして、秀麗よりも我が社の商品のほうが優れているという事をしっかりと証明してみせろ」
「っ、は、はいっ!」
社長は私は名誉挽回のチャンスを与えてくれるんだ。
「どうする? お前はうちの新製品をヒットさせて、美成堂の社員になりたくはないのか?」
「なりたいです」
やっと顔を上げる事が出来た。
私の目の前の社長は、綺麗な顔で、真剣な目で私を見据えている。
トクンと胸が高鳴る。
「私、精一杯頑張ります」
『それでは、商品説明を始めたいと思います!』
会場内のアナウンスで私たちは立ち上がり、再び会場へと戻った。