御影山編
***
新作発表会までもう少し。本来なら社長と会社の代表者の2名が出席するらしいけど、去年は仕事の都合で営業部長と和田さんが出席したらしい。今年は社長は出席予定だけど、もう一人がまだ決まっていないとか。
コーヒーは甘くて、疲れが少しだけ抜けて行くような気がした。
何だかんだで研修生としてこの美星堂に来て一月ちょっと。あまりにも目まぐるしく毎日が過ぎていたからもっと短いような気がする。
出来ればこのままここで働きたい。そして、新製品がヒットして欲しい。そして、社長によくやった。って言って欲しい……
―――――あれ? なんだろう、ふわふわして気持ちいい。温かくて、いい匂いがして、すごく落ち着く……
「おい、しっかりしろ! 葉月!」
え?
遠くの世界から私を呼ぶ声に、重たい瞼を上げる。
「―――社長?」
私の目の前には社長の整った顔があり、視線が合うとほっとしたような表情を浮かべた。
社長のこんな顔、初めて見たなあ……
「おい、分かるか?」
「? えっと、私いったい……」
「お前、今そこで倒れてたんだぞ」
「え?」
そう言えば、記憶が途中で途切れたような?
ゆっくり辺りを見回すと、そこはさっきまでいた休憩室で、私と社長しかいなかった。
飲みかけのコーヒーが床にこぼれてる。
「はあ……医務室へ連れて行ってやる、しばらく寝てろ」
そう言って社長は私の体を抱き上げた。
「えっ!? しゃ、社長! 大丈夫! もう大丈夫ですからっっ!!!」
ウソウソ!? これって、これって! 女の子が憧れるあの! お姫様抱っこじゃない!!!!
「うるさい、暴れるな、落ちて怪我したいのか?」
「いえっ……」
どうしよう、絶対私の顔、真っ赤だわ! 恥ずかしくて社長の顔をまともに見られない! っていうか! 私重たいのにどうしよう!
「社長!」
この声は川島さんだ。社長に抱きかかえられてるのを見られた! 恥ずかしいっ!
思わず両手で顔を覆う。
「社長、葉月さんっ、どうしたんですかっ!?」
いつも落ち着いている川島さんが珍しく声をあげた。
「心配ない、疲れが溜まっているみたいだ。俺はこいつを医務室へ連れて行く。後は頼むぞ」
「はい」