御影山編
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会社からの帰り道、私は無意識のうちに本屋さんに来ていた。別に買いたい本などないのに―――
「こんばんは、葉月さん」
突然声をかけられ、私は顔を上げた。
「白波瀬さん―――」
驚いた。でも、何だか白波瀬さんの顔を見るとほっとしてる自分がいる。
「どうしたんですか? 何だか元気がないみたいですけど」
「え? いえ、何でもないです。白波瀬さんはまたお仕事用に雑誌を買いに来られたんですか?」
「違います。さっきお店の前で葉月さんを見かけたんで、後を付けて来たんです。ちょっとストーカーっぽかったですね」
そう言って笑う白波瀬さん。ああ、この人のこの笑顔、癒されるなあ。
「もし良かったら、これから一緒に食事でも行きませんか?」
「いいんですか?」
「もちろん。僕が葉月さんと一緒にご飯を食べたいんです」
さ、行きましょう。と言って、白波瀬さんは私の手を引いて歩き出した。