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明月院編

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「商品のイメージから曲を作るというのがピンと来ないんですけど、今まではどういう風に作っていたのか、良かったら教えてもらえますか?」
「別にいいけど」
「ありがとうございます。私、美成堂のCMとかで流れる曲大好きなんです。素人の私が言うのも失礼ですけど、繊細で洗練されてて力強くて、商品のイメージにすごく合ってて、とても魅力的だなーって」
「ふうん」

 あれ、何かまずい事でも言ったかな? 
 口を噤んだ明月院さんの横顔をそっと確認しながら、音楽制作部屋へと戻る。
 明月院さんは大きな機械の前に座ると、足もとに無造作に置かれた段ボールの中からCDを取り出してセットした。

「―――あ、この曲」

 流れて来たのは最近CMで良く流れている美成堂のアイシャドウの曲。これは歌が入ってて、ちょっとクールな大人の女性のイメージなのよね。女優さんもキリッとしててかっこいい人が起用されてる。

「例えばこの曲。きみはどう思う?」
「え? はい、クールな雰囲気で、この時のアイシャドウの茶系に良く合っていると思います。強くて出来る女性! という感じがするというか……」
「うん。この時のコンセプトは“強い大人の女性”だった。きみの感じた事は間違いじゃない」

 良かった。なんか褒められてるのかな?

「今度のリップグロスだけど、きみのイメージは?」
「私のですか? そうですね……柔らかくて楽しい気持ちになるっていうか、可愛らしいイメージです」
「ふうん」

 ―――あれ? それだけ?
 何も言わなくなった明月院さんをじっと見つめていると、急に立ち上がった。
 うわ、びっくりした。
 そして無言で分厚いドアを開け、隣りの部屋へ入って行った。
 そこにはグランドピアノが置いてあって、明月院さんが静かに鍵盤に指を掛けた。
 防音だから何を弾いているのかは分からなかったけど、その姿はとても悲しそうで、苦しそうだ。さっき大嫌いと言っていた事と関係があるのかな?
 どうしてこんなに素敵な音楽を作れるのに、仕事が嫌いだなんて言うんだろう?


 それからもう、明月院さんは終業時刻になってもグランドピアノの部屋から出て来る事は無かった。
 私は仕方なく先に帰る旨を紙に書き残し、部屋を出る事にした。

作品名:明月院編 作家名:有馬音文