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明月院編

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エピローグ




 ピアノが置いてある広い楽屋に通されると、弟さんはいなくなってしまった。

「遅かったね」
「あ、すみません。ちょっと仕事が押してしまって」
「そう」

 ―――沈黙。どうしよう、急いで来たし、まさか楽屋に入れるなんて思ってなかったからプレゼントとか用意してないよ。見れば楽屋の中はお花とかケーキとかで溢れてるし。
 何て思ってると、明月院さんが壁の時計を見た。

「もうすぐ始まる」
「はい、楽しみにしてます。頑張ってくださいね」

 でもまた沈黙。
 なんか、いつもよりも会話が成立しない感じなんですけど……。

「あんたに、一つ確認したい事がある」
「はあ」
「これから俺はもっと上を目ざしたい。だから、あまり構ってやれないかもしれない……それでも、着いてきてくれるか?」
「はあ」
「そう。それならいい。今日のコンサートが終わったら、正式に婚約発表をするから」
「はあ」
「それまでにそこに用意してある服に着替えといて」
「はあ……って……えっ? な、何の話しですかっ!? 着替える? どうして? 全然意味が分からないんですけど!?」
「うるさい。今言った通り、婚約発表をする」
「だ、だから、誰と婚約するんですかっ!?」

 何? もう混乱しちゃって意味が分からないどころか訳が分かんないよっ!!!

「俺と結婚してくれるんだろ?」
「―――はあっ!?」

 ちょちょちょちょちょ、何ですか? ドッキリ? どっかに隠しカメラがあるとか!? ……にしては、何だか明月院さん怒ってるっぽい。
 てことは、まさか……本気?
 私は背筋に寒気が走った。
 いや、本来なら好きな人にプロポーズ? された訳だし、嬉しい! はずなんだけど―――

作品名:明月院編 作家名:有馬音文