明月院編
「あ、あのですね、まず一つお聞きしたいんですけど、大前提を忘れてませんか?」
「何?」
「なに……って、そもそも私たちお付き合いもしていないんですよ? それを飛ばして、いきなりけっ、結婚だなんて言われてもですね……」
「―――じゃあ付き合おう」
「はいいっ!!??」
「付き合ったら結婚してもいいんだろ?」
「いやっ、そういう訳でもなくってですねえ」
「じゃあどうしたらいい?」
ほっ、本気の目をしてる……。どうしよう? 本当に私と結婚したいの?
「あの、明月院さんは、わっ、私の事、好き……なんですか?」
うわー。すっごい顔になった! 怒ってるよ! 本当に本気で怒ってる!!
明月院さんは私の前まで近づいて来ると、ため息を吐いた。
「ふう……。そうか、俺はそういう一般常識をどうやら良く知らないらしい。どう言えばいい? 葉月が好きだ。結婚してくれ?」
浮世離れしてるのは分かってたつもりだけど、ここまでとは知らなかった。これもまた明月院さんの新しい顔って事なのかな? しかも語尾が疑問系だし。
何だか色々慌てたり考えたりしてるのが馬鹿らしくなってきちゃった。
思わず吹き出した私に、明月院さんは戸惑っている。
「ぷっ……」
「どうした? 何がおかしいのか分からないけど、俺はどうすればいいのか教えてくれ」
「いいえ、私事です。えっと……あの、私も好きです。これから、よろしくお願いします」
「―――そうか」
うわ……明月院さんがこんなに嬉しそうに笑うの、初めて見た。本当に、この人は不思議な人だな。
でも、この人に出会えて良かった。新しい発見が、まだまだたくさんありそう!
キュッと握られた手の温もりに微笑みながら、私は目の前の明月院さんへの想いを強めた。
END