明月院編
「僕も会社の為に色々とやらなきゃいけなくてね。利用出来るものを利用した。キミだって今までそうしてきただろう? それをそんなに怒るなんて、御影山らしくないな」
「何とでも言え、今回、うちはどこにも負けるつもりは無い。もう商品説明が始まる、お前の顔など見たくない、どこかへ行け」
「―――もしかして、僕が葉月さんを利用したのがそんなに気に入らなかったのかな?」
「黙れ……」
茶化すように言った白波瀬さんの言葉に、御影山社長は今まで見た事もないほどの鋭い視線で睨みつけ、低い声で凄んだ。
それを受けて、白波瀬さんは肩をすくめ、
「まあ、どうでもいいさ。これ以上綾人をからかうと殴られそうだからそろそろお邪魔しよう。明月院くん、とても素晴らしい演奏だったよ。今度はうちも生演奏を取り入れようかな。それじゃあね、葉月さん」
「えっ……あ……」
私は何も言えなかった。
だって、私を励ましてくれて優しくしてくれていたあの白波瀬さんが秀麗の社長で、知らなかったとはいえ、私はその秀麗にグロスの情報を流していたんだもの。
ガクガクと膝が震え出した。
「葉月……」
「っ!?」
あまりの出来事に混乱して私の目は涙が溢れそうになっていた。呼ばれて顔を上げると、明月院さんが私をじっと見ている。その隣りで社長も困ったように私を見ていた。
もう、駄目だ……入社試験以前の問題だよ。私、絶対に採用なんてしてもらえない。
「悔しいか?」
明月院さんの静かな声に、私はびくりと反応する。そして、無言で頷く。
「だったらやる事は一つしか無い」
私ははっとして社長を見上げた。
「―――私、やります。精一杯頑張らせてください!」
「気合いを入れろ。秀麗に一泡吹かせてやれ」
『それでは、商品説明を始めたいと思います!』
会場内にアナウンスが響き、私は気合いを入れた。
「はい!」
社長は私にチャンスをくれた。それに答えなくちゃ!