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明月院編

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「お客様。こちらへどうぞ」

 一瞬意識を遠くに向けていた私に、男性店員さんが声を掛けた。

「あ、あの。私、こういうお店は初めてで―――」
「そうですか、うちは海外のお店に買い付けに行っているセレクトショップなんです。あまり日本には流通していないこだわりのお洋服をご用意させて頂いていますから、ゆっくりくつろぎながらご覧下さいね」

 笑顔で言われても困る。そんなセレクトショップなんて言われても、どうしていいのか分かんない!

「明月院様のお母様によく利用していただいているんです。―――そんなに緊張しなくても、うちの商品はそんなに高いものじゃないので心配なさらないでください」

 クスリと笑われ、私は考えを見抜かれているという恥ずかしさで顔が赤くなった。

「こちらのワンピースなどいかがでしょうか? お客様によくお似合いだと思います」
「あ、可愛い」

 店員さんが勧めてくれたワンピースは、カフェラテのような甘い色合いの柔らかいワンピースだった。

「どうぞ、ご試着してみてください」
「はい」

 笑顔で言われ、私はフィッティングルームへ。
 鏡の前に立ち、渡されたワンピースを見つめる。
 今まで選んだ事の無い色と形に、少し勇気がいるけど、のろのろしてたら明月院さんに悪いもんね。ちょっと恥ずかしいけど、よし、着てみよう!
 ―――あ、このワンピース、すごくいい! 
 着てみるとすごく形も良くて、スタイルがよく見える。おまけに生地がいいから着ていて気持ちがいい!

「あの、どうですか? ーーーわっ?」

 ちょっと嬉しくなってフィッティングルームを出ると、目の前に明月院さんが立っていて驚いた。
 無表情の明月院さんはじいっと私を見ると、小さく頷く。

「そこのパンプスを履いてみて」

 言われて足もとに並べてあったパンプスを履いて、店内に恐る恐る出て行くと、何だか背筋が伸びたような気がする。気が引き締まるっていうか……

「これでいい。包んでくれ」
「かしこまりました」
「えっ?」

 私の意見はおかまいなしに、ワンピースとパンプス購入が決まってしまった。抗議しようにも明月院さんはもうさっさと元居たソファに戻ってしまった。
 こういう所、自分勝手というか、何と言うか。

「それではお包み致しますね」
「はあ」


作品名:明月院編 作家名:有馬音文