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明月院編

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***

 お店からの帰り道、私は明月院さんとタクシーに乗っていた。

「あの、私、このワンピースのお金……」

 払ってないんですけど―――

「いらない」
「えっ? でもっ」
「社長に請求するから心配いらない」
「そうなんですか? ―――あの、付き合って下さってありがとうございました。私一人じゃこんなに素敵なワンピース探せませんでした」
「俺も女物の服なんて分からない。母がよくあの店で買うから、あそこしか知らなかっただけだ。礼を言われるほどの事じゃない」
「でも、本当に助かりました」

 それに、明月院さんと一緒に出かけるっていうのが、何となく嬉しかったし。

「着いたぞ」

 話していると、あっという間にアパートに着いてしまった。

「あ、はい。ありがとうございました」

 もっとお話ししたいな―――。でも、そんな事言って明月院困らせちゃ駄目だし。
 少し寂しく感じながら、私はタクシーを降りた。
 窓越しに明月院さんを見て、もう一度頭を下げる。

「本当にありがとうございました。お疲れさまでした」
「ああ」

 静かにシートに座ったまま答える明月院さんの横顔は相変わらず綺麗で、私は胸の奥が小さくうずくのを感じる。
 タクシーが路地を曲がって見えなくなるまで、ただじっとその場に立って明月院さんの姿を思い浮かべた。
 
「―――なんだか、変な感じ」



作品名:明月院編 作家名:有馬音文