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明月院編

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***

 信じられない事に、私は今、明月院さんと二人で会社近くにあるお洒落なショッピングストリートを歩いている。そして、通り過ぎる人(女の人)が、面白い位に明月院さんの顔を見て振り返っている。
 そりゃそうよね、私も初めて明月院さんの顔見た時、あんまり綺麗でびっくりしたもの。
 そんな美しいお顔の明月院さんは相変わらず無表情で、周囲の視線や声など聞こえていないようにさっさと歩いていた。

「あの……」

 迷う事無く進む明月院さんの背中に、言葉を投げるとチラリと後ろの私を振り向いて首を傾げた。

「なに?」
「えっと、今、どちらへ向かっているんでしょうか?」
「新作発表会用の洋服を買いに来てるんだけど?」
「はあ、それは分かっているんですけど」

 デパートとか、そういう所じゃないと洋服屋さんって思いつかないっていうか……

「ここ」

 そう言って丁度立ち止まったお店は、とってもお洒落な店構えで、なんていうか、その―――。すごく高そうなお店だった。

「ここ、ですか……?」

 尻込みする私を他所に、明月院さんは慣れた様子で中に入って行ってしまった。
 ちょっと、待って下さい! 私、多分こんな高そうなお店の洋服を買うお金なんて持ってませんよぉ。
 慌てて追いかけると、やっぱり店内もすごくお洒落で、落ち着いた大人の雰囲気だ。

「いらっしゃいませ」

 店員さんが無駄の無い動きで近づいてきて、挨拶をする。

「どうも……」
「お久しぶりです、明月院様。今日はどういったお召し物をお探しですか?」
「こいつに似合うパーティー用の服を何点か見繕ってくれ」
「かしこまりました」

 こいつ―――。つまり、私に二人の視線が集まると、もちろん私はドキっとした。明月院さんは固まった私を置いて、店の奥にあるソファに座ってしまった。
 こんな訳の分からない状況に放置されて、どうしたらいいの? 私……

作品名:明月院編 作家名:有馬音文