明月院編
どれくらい時間が経ったか、ふと目の前に影が出来て顔を上げる。
「あ、もしかして会議の時間ですか?」
明月院さんが無言で立っていて、じっと私を見下ろしていた。
無表情なのにやっぱり凄く綺麗。
私の質問に小さく頷くと、さっさと部屋を出て行く。
「あっ! 待って下さい!」
「うるさい。大きな声を出すな」
ピタリとドアの所で足を止め、私は明月院さんに怒られた。そんな大きな声出してないと思うけど……
「君は音楽に関して素人なんだろ? なのにどうして?」
エレベーターに乗った所で今度は質問された。
「どうしてって……全国の人が見るCM曲を作るなんて、すごく素敵なお仕事だと思って。CMって内容だけじゃなくて、音楽もすごく大事だと思ったんです」
「―――俺はこんな仕事大っ嫌いだ」
「え?」
私に、というより、明月院さんは空中に向かってそう吐き捨てた。
大嫌い? どうして?
疑問は出て来たけど、聞けなかった。だって、嫌いだと言った明月院さんの顔がすごく辛そうだったから。
何か理由があるのかも知れない。
でも、私がそれを聞くべきじゃない。
エレベーターが止まり、会議室へと入るとたくさんの人たちが集まっていた。
席に座ると、明月院さんが口を開いた。
「社長が、新製品がヒットするまで俺の仕事を手伝うようにって」
「分かりました」
ということは、新製品をヒットさせられなかったら私は自動的にこの会社でお掃除の仕事―――いや、丁稚奉公―――。