明月院編
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あれから社長と会社のロビーで別れ、私は単身音楽制作部へと乗り込んだ。
ドアをノックする。
しばらく待ったけど返事はない。
もう一度ノックする。
ガチャリ
と、ドアなんだけどいかにも『不機嫌!』って感じに開いて、中からこれまた不機嫌な顔の明月院さんが現れた。
「あ、あの。こちらの部署でお手伝いをさせていただく事にしました。よろしくお願いします」
少し緊張気味にそう言うと、明月院さんは小さくため息を吐いた。
「入って」
「はい、失礼します……」
君みたいな役に立ちそうもない人間はいらないから、帰って。
とか言われるんじゃないかと思ったけど、いきなり追い返されはしなかった。良かった……のかな?
取りあえず明月院さんに付いて室内に入ると、机の上からA4サイズのクリアファイルを渡された。
「今日の会議の資料。社長に渡すようにさっき言われたから、目を通しておいて」
「分かりました」
書類を渡してそれだけ言うと、明月院さんは私を無視してパソコンで何やら作業を始めてしまった。
―――会議って何時からなの? っていうか、この人必要最低限の事以外話さないのかしら。
考えても仕方ない。私は部屋の隅に置いてあるソファーに座り、受け取った書類を出して内容をしっかりと頭に叩き込む作業に没頭する事にした。
音楽のことなんて分からないけど、それでも魅力的な仕事だと思ったんだもの。CM音楽についても勉強しなきゃ!