明月院編
6
「えっ!? 新製品の情報が秀麗にもれてる!?」
私はあまりの驚きで倒れそうになってしまった。それをカレンが抱きとめてくれる。
「ちょっと、水那、大丈夫?」
「だ、だいじょばない……だって、情報が漏れてるって、そんな―――」
「この世界、いかにライバル社の情報を得るかが商戦の鍵を握ってるのよ。それでも今回うちはかなり慎重にやってきたんだけど……。まあ取りあえず開発部が新色をいくつかここ数日徹夜で作ってくれて、他にどの肌色にどの色が合うかっていう小冊子を作ってつける、っていう案が出たし。それで何とかなるだろうって事で落ち着いたのよ。あんた達は音楽だから、そんなに影響しないから伝えられてなかったんだけどね」
「そうだったんだ……」
チラリと、ピアノがあるブースにこもって曲を作っている明月院さんを見る。明月院さんもここ数日ほぼ徹夜状態でこのスタジオにいて、一人でドラムやベース、ギターなどの音をパソコンで作っていた。
CM用、店舗用、それから今度の新作発表会用と、よく考えたら今までこれを明月院さん一人で作っていたって事よね。すごいというか、大変だよ。
「でも今作ってる曲、あんたのアイディアから出来てるんでしょ?」
「アイディアってほど大層なものじゃないよ」
「でもあたしのイメージとピッタリよ。可愛らしくて元気な感じで、それでいて子どもっぽくない。耳にも残るしつい口ずさむ感じ?」
「明月院さんがピアノを弾くと、何だか音が踊ってるみたいなのよね。今までの美成堂のCM曲ってどれも好きだけど、明月院さんが作ってんだって知ってから、なんか納得した」
「うんうん、分かるわ」
カレンと話しているうちに、明月院さんはブースから出てきた。
「これから編集するから、集中したい」
「あ、分かりました。何かご用があったら呼んで下さいね」
コクリと頷く明月院さんを見届けて、私とカレンは音楽部を後にした。