明月院編
明月院さんのレコーディングが終わるとそのまま会社へ向かい、何故か私は今、ピアノの前に座らされている。
「あのお……」
座ったのはいいけど、一体どうしろと?
恐る恐る隣りに立っている明月院さんを見上げると、くいっと顎でピアノを指した。
「さっき俺が弾いてたように、ちょっと弾いてみて」
「はっ!?」
な、何を言っているのこの人!? 正気じゃないわ! そんな事出来る訳ないじゃないのっ!!!
「早く」
「で、でも。私ピアノは……」
「いいから早く」
有無を言わせないその言葉に、私はもうどうにでもなれ! 状態でさっき聞いた曲を思い出してみることにした。
えっと、確かこんな感じ……
「ポロロン……」
もちろん明月院さんみたいに両手で格好良くなんて無理だから、取りあえず右手だけで音をなぞる。
―――あ、そうそう、確かこんなだったわ。
弾き始めると音が鮮明に思い出されて来て、私は弾くのが少し楽しくなってきた。
けど……
「あっ……」
途中でやっぱり分からなくなってしまって、私の指は止まった。
「すみません、これ以上は―――」
申し訳ない。才能がないばかりか、音楽の知識すらないなんて、本当に足手まといよね。
「次はこう」
「え?」
突然明月院さんが私の手を握って、指を鍵盤の上に置いた。あまりに突然で、私は驚く間もなく明月院さんの手に導かれるまま鍵盤を押さえて行った。
そうだ、こうだ。この音だ。
明月院さんの手はすごく温かくて、私はそのぬくもりに胸が高鳴った。
「あんたのイメージを聴きたい」
曲が全部終わると、私の手を離した明月院さんがぼそりと言う。
イメージって何の?
私の疑問が伝わったのか、明月院さんはガラスの向こうの部屋を指差しながらまた言った。