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明月院編

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***

 レコーディングも無事終わり、私は再び明月院さんが運転する車の助手席に座っていた。
 さっきの明月院さんの演奏が耳から離れない。
 TAKAさんが言っていたけど、レコーディングで一度も録り直さないアーティストはほとんどいないらしい……。ようするに、間違わないで一回だけで録音が終わってしまうってこと。一度も間違わないでだよ? 私にだってそれがすごいことくらい分かる。そんなすごい事を明月院さんはいつもやってのけているんだって。
 チラリと運転する明月院さんを見る。

「何?」
「あの、今日は連れて来てくださって、ありがとうございました。すごくいい機会を与えてもらいました」
「さっき俺が弾いてた曲、覚えてる?」
「え? あ、はい、なんとなく……?」
「そう」

 また無言になってしまった。一体何が言いたいのかさっぱり分からない。お礼を言ったのにそれについて何も言わないし、アーティストって変わった人が多いって聞くけど、明月院さんは典型的なパターンかも。
 会話も止まり、私はまた窓の外の景色に集中した。


作品名:明月院編 作家名:有馬音文