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明月院編

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 促されて中に入ると、会社の音楽部にあるのと良く似た大きな機械がドン! と設置されてて、ガラスを隔てた向こう側に明月院さんが座っているのが見えた。
 うちの会社と違うのは、人がいっぱいいる事と、機械がさらに大きい事。さらにはガラスの向こうにドラムとか色んな機械がたくさんある事―――。
 部屋の入り口横にソファがあって、私はそこに座らされた。コーヒーやお菓子なんかも出て来て、何だか申し訳ない気持ちになる。
 だって、全然何の関係もない素人が、こんな有名なバンドのレコーディングを間近で見られるんだよ? もっと本気で音楽をやりたい人ならすごく勉強になるんだろうけど、私の場合豚に真珠というか、馬の耳に念仏というか……。
 そんな事を考えていると、機械の前に座っている一人の男性がマイクに向かってしゃべり出した。

「それじゃあ明月院、頭から流すぞ」
『はい』

 ガラスの向こうでキーボードに向かって、ヘッドホンを付け座っている明月院さんの返事が、スピーカーから聞こえて来た。
 何が始まるのかしら。
 そう胸を躍らせていると、規則正しい「カッ、カッ、カッ、カッ」という電子音が聞こえて来て、明月院さんがキーボードを弾きはじめた。

「わぁ……」

 リズムに合わせて奏でられる綺麗なメロディー。まるで海の中を漂っているような透明な音。
 素人の私にでも分かる……明月院さんは、すごく上手だ。

 鍵盤だけのイントロからドラムやベース、ギターの音が入って来て、先ほどの静けさから今度は音に厚みが出来た。
 それに合わせて明月院さんはどんどん鍵盤を叩いて行く。

「どう? 聖さん、すごいでしょ?」

 隣りに座っていたTAKAが自慢げにそう言ったけど、私は返事も出来ずにただ何度も頷くだけだった。
 すごい、すごい! 明月院さんって本当にすごい!

作品名:明月院編 作家名:有馬音文