明月院編
「白波瀬さんはどうですか? お仕事順調ですか?」
「そうですねぇ、ボチボチ――ですかね。葉月さんは具体的にはどんな事をなさってるんですか?」
「あ、私は今は新製品のCM曲なんかを作る音楽部の方にいます」
「へえ、CM曲? 葉月さんは音楽の経験があるんですね!」
「いいえ、全くのズブの素人なんです」
「え? それなのにどうして?」
白波瀬さんの言いたい事はよーく分かるわ。社長だって明月院さんだって、かく言う私だって何でだろうっていまだに思ってるし。
でも……
「全然分からないお仕事なんですけど、やっぱり化粧品のCMって映像も音楽もすごく重要だと思うんです。たくさんの人たちが一つの商品を作るのに一生懸命になってて、その中でもすごく音楽に惹かれたんです。だから、頑張ってみようと思って」
「そうですかあ。確かに曲によってイメージが随分変わりますもんね、分かりますよ葉月さんのその気持ち」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃあ、お仕事は楽しい、ですか?」
「はい。―――あ、うちの音楽部の上司ってちょっと変わり者というか、読めない人なんですけど、本当に素敵な曲を作って演奏するんです。それを聴いてたら何だかこっちまでピアノが弾けるような気になっちゃって」
「ふふ、葉月さんは感受性が豊かな人なんですね。仕事が楽しいなら、新製品だとヒットした時の喜びもなおさら大きいですし、やりがいのある内容のお仕事だと思いますよ」
ヒットした喜び――うん、味わってみたいな。ていうか味わえなかったら私の就職戦線も終了なんだけど……。
「開発している段階から欲しくなってしまう商品で。完成が今から楽しみなんです」
「素敵な商品なんでしょうねぇ」
「はい! とっても魅力的なリップグロスなんです!」
「ふふっ、楽しそうで僕も関わりたくなっちゃいます」
「私も白波瀬さんみたいな方とお仕事出来たら、凄く嬉しいんですけど」
私がそう言うと、白波瀬さんは一瞬目を伏せた――ように見えた。けど、気のせい、かな?
「うちに来ませんか?」
「え?」
「なーんて、僕が社長だったら言えるんですけどねぇ」
そう言って苦笑する白波瀬さん。なんだか胸の奥でドクンと音が鳴った気がする。
「そう言えば白波瀬さんはどちらの会社なんですか?」
「いや〜、美成堂さんの前ではもう弱小も弱小なので。内緒にさせておいて下さい」
「そんな事……」
「でもっ! 心意気だけは負けてませんよ〜」
「あははっ」
白波瀬さんと話しているとリラックスしている自分がいる。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、私と白波瀬さんは楽しいひと時を過ごした。