明月院編
「あ! でも今、研修はしてるんです!」
心配そうなその表情を少しでも和らげたくて、思わずそんな事を口走った。
私がそう言うと白波瀬さんはほっと小さく息を吐いた。
「それは良かった!」
「はい! しかも化粧品メーカーなんですよ〜。白波瀬さんと一緒ですね!」
「えぇ!? そうなんですか! うわぁ、すごい奇遇ですね〜!」
化粧品メーカーというと、白波瀬さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。やっぱり同じ業種の人とこんな風に知りあえるのって嬉しいし、親近感もわいちゃうよね!
「ちなみにどちらの?」
「美成堂です!」
美成堂と言う時に思わず少し胸を張ってしまう。だってあの美成堂なんだもん! 白波瀬さんも美成堂という名前に驚きを隠せないようで、思わず目を丸くしている。
「美成堂とは凄いですねぇ! 葉月さんは優秀なんですね」
「いえっ、そういうわけじゃないんですっ。たまたま御縁があって……」
「いえいえ、葉月さんはとっても魅力的な方ですし、美成堂さんの採用担当の方の気持ちも分かります」
採用担当――私を採用してくれたのはあの鬼社長。あの鬼社長の気持ちをこの心優しい白波瀬さんが理解する日は一生ないと思う……なんて言いすぎかしら。更に言うと今日の私が多少なりとも魅力的に見えるのであれば、それは間違いなくカレンのおかげで……ああ、もう! 本気でカレンに感謝!
「で、研修はどうですか? 楽しいですか?」
「はいっ! 分からないことばかりで大変ですけど、でもやっぱり楽しいです」
「そうですよねっ、僕もこの業界が大好きなので、葉月さんにそう言って貰えると何だかとっても嬉しいです」
白波瀬さんが本当に嬉しそうに笑ってくれたので、私も思わず肩の力が抜けていく。