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明月院編

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 行っちゃった。どうしよう。一人取り残されてしまった……。でも取りあえず明月院さんがわざわざ出してくれたものを聞かなきゃだよね。
 テーブルの上のファイルやCDを見て、私は肩を落とした。
 私の所為で明月院さん集中出来ないんだ。余計な事ばっかりして、大きな声ばっかり出しちゃうから。ここは明月院さんの仕事場なのに、私がこんな風に使って。どうして私、音楽部なんかを選んだんだろう?
 CDプレーヤーの再生ボタンを押すと、軽やかなリズムが流れて来た。

「あっ、これ、聞いたことある」

 急いでファイルをめくると、数年前に流れていたファンデーションのCMソングだった。
 有名な歌手が歌ってたけど……これって作曲者が明月院さんになってる! 知らなかった!
 何だか次々と明月院さんが作った曲を聴いていたら、無性にピアノに触ってみたくなった。

「怒られちゃうかな? 怒られるよね? ―――でもでも、ちょっとだけ触ってみたい」

 私は重たいドアを開け、恐る恐るピアノの前へと歩を進めた。音楽に関しては全くの素人だけど、学校の授業でリコーダーとハーモニカくらいは弾いたことがある。楽譜なんて読めないけど……。
 そっと鍵盤に触れる。

「ポロン」

 室内に落ちた音はとても穏やかで、私は知らず笑顔になっていた。

「ピアノって、こんなに鍵盤が重たいんだ……ピアニストってすごいんだなあ」

 黒い長方形の椅子に腰掛け、先ほど聴いたCMの曲を真似して弾いてみる。

「えっと、確かこんな感じだったかな?  ―――うん、そうそう、こんな感じ!」

 何これ、すっごい楽しい!  

作品名:明月院編 作家名:有馬音文