明月院編
「あれ?」
私はたくさんあるヘンテコなものの中の一つに、緑や赤色が上下に動くメーターのような物を見つけた。
「どうしてこれだけ動いてるのかしら?」
不思議に思ってそのメーターの真下にあるボリュームスライドらしいつまみをぐいっと上げた。
「うわっ!?」
突然スピーカーからピアノの音が飛び出して来て、私はびっくりした。
「何これ? ……あ、もしかして」
ふとガラスの向こうでピアノを弾いている明月院さんを見る。
やっぱり明月院さんが弾いている音が聞こえてるんだ。―――すごく綺麗な曲。
でも、なんでだろう、とても悲しく聞こえる。
どんどんと紡がれて行くピアノの音色は、綺麗なのに私の胸を締め付けた。そして気づくと、私の目から涙がこぼれていた。
突然音がやんだ。ガチャリと重たい音がして、明月院さんがこちらへと戻って来る。ものすごく険しい顔で。
「何をしているの?」
「え……あ、すみません」
やばい、涙拭かなきゃっ。
「誰が勝手にブースの音を拾っていいって言った?」
「ご、ごめんなさい。マイクスイッチを探してて、ここだけメーターが動いてたから気になって……」
「マイク? 俺に何か用?」
「い、いえっ、違うんです。私、こんな機械見た事無くて、さっき明月院さんが言った言葉の意味もよくわからなくて、それで探してみようと思っただけです。すみません」
もう、本当に私のバカ!
ぐいっ! と頭を下げると、明月院さんはため息を吐いた。
「別にいい。あんたの所為でやる気なくなったから出かける」
「えっ!? あの、ちょっと待って下さい!」
「―――声、うるさい」
「すっ、すみません」