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市来編

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***


 教育部に入り一通りの挨拶を済ませると、カレンは私を奥の方の席へと移動させた。
 少し私を待たせた後、カレンは様々な化粧品を持って現れた。

「よいしょっと」

 そう言うと、ドカッと化粧品の山を目の前の机に下ろす。

「これが過去1年以内に出たうちの商品」
「これ、全部?」
「そー。凄いでしょ? ぜーんぶテーマとか見せ方が違うの。当然売り方だって違う」
「ほへ〜」

 思わず間抜けな声が出てしまった。

「で、今回はグロスを出すわけなんだけど――これが新製品のサンプルね。水那だったらどの色を選ぶ?」

 メインのコーラル系の他にもピンク系が2色と、それにベージュにゴールド、やや青みがかったクリア。また真っ赤なんてのも用意されている。

「うーん……私ならこっちのピンクかなぁ」
「ふふっ。なるほどねー。そっちはブルーベースのピンク。ちょっと付けてみよっか?」

 そう言うとカレンはテキパキと手を進め、あっという間に私の唇に色を載せた。

「どお?」
「うーん……」

 正直、あんまり似合ってない気がする。なんでだろー、見た感じは凄く可愛いグロスなのにな。

「じゃ、今度はもう一個の方のピンクつけてみよっか」

 そう言うが早いかカレンは私のグロスを落とし、ベースを整えると再び色を載せた。

「あ、こっちはすごくいい」

 鏡を見た瞬間、思わずそんな風に言ってしまった。

「でしょ? 同じピンクでもこっちはイエローベースだから」
「イエローベース?」
「そ、通称イエベっていうんだけどね。水那はパーソナルカラーって知ってる?」
「? 聞いたことあるような……ないような……」
「人にはね、それぞれ似合う色って言うものがあるの。季節と同じで4パターンで主に分けられるんだけどね」
「春夏秋冬ってこと?」
「そ。肌の色や髪の色とかで判断するんだけど、水那はオークル系の肌に、明るいブラウンの髪。目も日本人にしては明るいブラウンでキュートなイメージ。だから春に分類されるの」

 へぇ〜……そんなのがあるんだーっと思わず感心してしまう。

「季節ごとに似合う色が違うの。で、水那は肌もイエベだし、ブルべのピンクよりもイエベのピンクを足した方が、より明るく見えて馴染みやすいってわけ」
「へぇ〜」

 そんな事、今まで考えた事もなかった。

「他にもいろいろあるんだけど――そうそう、この本なんかは参考になると思うわ。貸したげるから持ってきなよ」
「いいの?」
「うん、うちの新人教育にも使う本だから。今日みたいに市来さんいない時とか勉強になるし。こういう事知っておくと、カメラだけじゃなくてその後の修正なんかにも役に立つと思うから」
「有難う!」

 素直に喜ぶ私を見て、カレンは思わず笑みをこぼす。

「ふふっ。じゃー、今日はこの化粧品の山を使ってお勉強ね! 実際に店頭に立つ時はお客様に進めるのにもとっても重要なポイントになるんだから。きっと水那の役にも立つと思う」
「うん! やってみる!」

 さっきまで少し落ち込んでいたのはどこ吹く風。ホントに私ってゲンキンだなぁなんて思うけど、これは長所……だよね? うん、よっし! 頑張るぞ〜!


作品名:市来編 作家名:有馬音文