市来編
そんな事を思っているとエレベーターが止まった。市来さんの押した1Fまではまだあるはず――なんて思いながら、人が入ってきた時用に奥へと足をずらすと
「やだぁ! 水那じゃない〜〜!」
入ってきたのはカレンだった。
「カレン〜!」
馴染みあるその顔に思わず笑みがこぼれる。
「ってやだ、私ったら。市来さんお疲れ様です」
「うぃ〜、カレンちゃん。今日も綺麗だねー」
「やぁだぁ、ほほほ!」
市来さんとも難なく会話するカレンに思わず尊敬のまなざしを向けてしまう。
「つーか、葉月と知り合いなのか?」
「えぇ、幼馴染なんです」
「ほー。そいつぁラッキーだ。カレンちゃん、悪いんだけど今日一日こいつの面倒見てやってくれない?」
「「え?」」
カレンと思わずハモってしまった。
「いや俺さ、今日は外部の仕事なんだよ。教育っつー事でさ、ひとつ」
「うちはあくまで美容部員の教育であって社内教育じゃないんですけど」
なんてカレンが言い終わるか終らないかのうちにエレベーターは1Fへと到着。
「今度メシでもおごるからさ! よろしく頼むわ〜」
カレンの肩をポンっと叩くと、市来さんはフロアを駆け出して行ってしまった。
う……。きっと私なんてハナから戦力にならないと思って、まともに仕事を教える気なんてないのかもしれない。ただ時間だけを浪費させて、自分の仕事さえ全う出来ればいい――なんて思ってるのかも。
不安になってしまってマイナスな考えが思い浮かぶ。
「全くもう。市来さんはいっつもマイペースなんだから。よし、じゃーついて来て水那」
カレンはそう言うと、市来さんがカレンにしたように私の肩をポンっと叩く。
「なんでも勉強よ? うちでだってイベント用のライティングなんかの勉強は出来るし、それにまだこの会社自体に馴染めてないんだから、ちょうどいいじゃない」
そう言って微笑むカレンに思わず肩の力が抜ける。
「カレン〜〜〜」
人の目も気にせず思わずカレンに抱きついてしまう私。
「ははっ。まー、市来さんとご飯の約束取り付けれただけでも収穫あったし、収穫分はきっちり教育させてもらうわよ〜」
張り切るカレンに続いて、私は教育部へと向かった。