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市来編

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「次は写真映像部より、市来が説明いたします」

 そう言うと、市来さんが立ち上がる。春日さんと違って市来さんは本当に大きい。男の人! って感じがする。
 そんな市来さんは少し眠そうな目で新製品のコンセプトをもとに、どういった感じの写真を撮るか簡単に説明をした。いくつか候補の写真を撮って、その中から選ぶらしい。腕が良いカメラマンでも、会社のGOサインが貰えなきゃダメなのね。本当にひとつの商品を作って店頭に並べるまでにこんなに多くの過程を経て、多くの人たちが関わって努力しているんだなあ。なんだかすごい、感動しちゃってる私。
 市来さんの次は音楽制作部の明月院さん。こちらは相変わらず無愛想にぼそぼそとしゃべっている。綺麗な顔しているから、余計に不思議な雰囲気を醸し出すんだよね。
 一通り説明が終わった所で、社長が立ち上がった。

「今回の商品はとても重要なものとなる。我が美成堂が国内シェアやアジアだけでなく、ヨーロッパやアメリカなど広く海外へと進出する足がかりとなるという事を全員肝に銘じ、それぞれの仕事に全力を尽くしてもらいたい。ライバル社との厳しい商戦になるだろうが、君達を信じている。以上」

 社長の声がしんとした会議室に響き、全員が一斉に立ち上がった。私も急いでそれに倣う。

「それでは本日の会議はここまでとなります。次回の会議は一週間後です。よろしくお願いします」

 進行役の締めの言葉に、それぞれが会議室を後にし始めた。

「終わった終わった」

 市来さんは首筋を揉みながらヤレヤレと言った感じで会議室を後にする。私も慌ててその後を追った。

「あのっ、これからどうすればいいですか?」

 その背中に向けて疑問を投げると、市来さんは立ち止る事無く、けれど私の方に視線だけは向けてくれた。

「俺は他の仕事があるから」
「他……ですか?」
「言ったろ? 俺はここの仕事だけしてるわけじゃないって」
「あの、それじゃ」
「他の現場にド素人のお前を連れていく事は出来ん」

うっ。ドの部分に妙に力が入ってた気がする……。

「どうすればよろしいですか?」

 私がそう言うと市来さんは露骨に面倒臭そうに長く息を吐いた。

「ま、働いた事なんかねーんだもんな。指示がなきゃ動けないのもしょーがねーか」

 そんな事を言われても、この会社に来たのだって昨日の今日で右も左もまだまだ分からない。それが言い訳になるわけじゃないけど、でも……。

「どーすっかなー。カメラの勉強? いやいや加工でもやらせてみるか? いやいや」

 ブツブツと呟きながらエレベーターに乗り込む市来さん。私も中へと滑りこむとタイミングを見計らってあったかのように、ちょうど扉が閉まった。

「そー……だなぁ。とにかく今日は何か教えるにも時間が取れねぇんだわ。悪ぃな」
「あ、いえっ」
「ま、写真部を選んだ葉月にも落ち度があったって事で」

 一言多いっ、思わずむくれた私を見て市来さんがフッと短く息を漏らす。

「冗談だよ」

 あれ、今、少しだけ笑ってくれた気がする。

作品名:市来編 作家名:有馬音文