市来編
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各社の発表は次々と進み、大音響で音楽が流れ、ステージ中央にはスポットライトが当たっている。ステージ袖からモデルさん達が次から次へと出て、会場から拍手と歓声が沸き起こる。私の出番ももうすぐだ。
さっきまで怖くて緊張しっぱなしだったのに、今は不思議と気持ちが落ち着いている。市来さんの言葉が私の背中を押してくれている。
『次は美成堂です』
アナウンスとともに曲調が変わる。私の出番だ。
さんざん練習したウォーキングで、私はステージへと躍り出た。
わああああ! という歓声とすさまじいフラッシュの嵐。思わず身が引きそうになったその時、瞼に浮かんだのはカメラを構えた市来さんの真剣な表情だった。そうよ、これは全部市来さんのフラッシュ。フラッシュの先に居るのは市来さん。
そう思ったら自然に笑みが零れてきた。ステージに立ってはいるけど、私は今、市来さんと一緒なんだ!
『美成堂の今季の最大のテーマは自然です。このリップグロスをつければ、誰でも幸せな気分に。その微笑みで誰もが物語のヒロインになれるのです!』
わああああ! 歓声が再び耳に届く。私はモデルさんでもないし、社会人ですらない。でも今、この時この瞬間、最高の幸せを感じている。あの日、社長に出会えて良かった! 市来さんと過ごせて本当に良かった!
幸福感に満ち満ちながら、そんな事を思っているとあっという間に出番は終わり、気付けば私は控室に戻っていた。
……終わった。
安堵感からか自然に涙が零れた。もう泣いてもいいよね。だって出番は終わったんだもの。
「ちょっと水那!」
遠慮なく涙をずびずばーっと流していると、咎めるような声が背中に刺さった。
「カ、カレン?」
振り向くとそこにはバッチリメイクで気合いの入ったカレンがいた。
「水那、あんたメイクが……」
「うん、だけどもう出番は終わったから。ほっとしたし、色々あって」
「終わってないわよ」
「へ?」
「終わってないわよ、出番〜〜! 美成堂が最優秀賞とったのよ! だからもう一度舞台に立たなきゃ!」
「え〜〜〜〜!?」
嘘うそウソ!? 完全に気を抜いてて、結構な時間泣いちゃってた気がする。鏡に視線を向ければ、そこにあるのはひどい顔。パンダなんて可愛いものじゃない。ビジュアル系バンドみたいに、目から黒い縦ラインが流れている……。
「水那、こっち向いて!」
「は、はいっ!」
慌てた様子でカレンが私のメイクの修復にかかる。
はー、もう! 私ってどうしてこうなのーー!? なんて焦りつつも、心は高揚している。
「ね、カレン。美成堂が一番ってことだよね?」
「そうよ、皆の思いが報われたの」
良かった。白波瀬さんの事とか、何も出来ないくせにプロジェクトに関わった事とか、色々あったけど、私、最後の最後で迷惑かけずに済んだみたい。
「よし、完璧! さー、行っておいで!」
「うん! カレン有難う!」
カレンをギュッと抱きしめた後、私は再びステージへと走り出した。