市来編
8
あの新作発表会から数日後、私は社長室へと呼び出されていた。
「失礼します」
断りを入れて入室すると、社長はいつも通りのクールな様子で椅子に座っていた。
「新作発表会が効いたみたいでな、新作のグロスは注文殺到だ」
そう言って立ち上がると、社長が私の方へと一歩近づいた。
「つまり、あの商品はヒット確実という事だ。頑張ったな」
そう言って社長が少しだけ微笑んだので、思わず足もとから崩れ落ちそうになるのを、ぐっと堪える。
新作発表会の後、社長には白波瀬さんとの事を何もかも話した。凄く怒られるかと思ったけど、社長は何も言わずに黙って最後まで話を聞いてくれた後、「今後は開発中の製品に対しては社外では一切漏らさないように」と言ってくれた。
「葉月水那を美成堂に正式に採用する」
「え?」
「なんだ、不服か?」
「い、いえ! いえ、そんな! で、でも本当ですか!?」
「俺はこの前お前に『今後は開発中の製品の事を漏らすな』と言ったはずだぞ。次があるという事だ。分かってなかったのか?」
全然気づいてなかった……。こんなんだから私はダメだったんだわ、と改めて妙な実感を覚えてしまう。
「持って行け」
そう言って社長が手渡してきたのは、紛れもない採用通知。
「あ、有難うございます!」
恭しく受け取った後、今度は勢いよく頭を下げた。私、私! 本当に美成堂の社員になれるんだ!