市来編
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「お、いいな。良く似合ってる」
私を見るなり市来さんはそう言ってくれた。
「あ、有難うございます」
なんか改めてこんな風に言われちゃうと、妙に恥ずかしい!
「葉月は素人だから演技は出来ないだろ? だからCMはこういう撮影風景の最中の映像からも、良い物があれば使っていく事になったみたいでな。そっちのカメラも入ってきてるが、まぁ気にするな」
「えぇ!?」
そんな事聞いてないわよ!
改めて辺りを見回すと、よくTVなんかで見るあの大きなカメラが何台も用意されている。う、嘘でしょ……。ポスター撮影っていうそれだけでも心臓が口から飛び出しそうなのに!
「おい」
「は、はいっ」
動揺の余り目を泳がせていると、市来さんは私の事を真正面から見据えていた。
「お前は俺だけに集中しろ。他のやつらの事は考えるな」
「あ、あのっ。で、でも」
「でもじゃない。言うとおりにしろ」
「わ、分かりました」
余りにも真っ直ぐな目でそんな風に言うものだから、こっちはもう余計に……! でもでも、市来さんだけを見てればいいんだ。そうだよね、だって他のカメラはあくまで良い物が撮れたら使っていくっていう事だもんね。私は市来さんに撮られる為に、ここにいるんだ!
そんな風に思うと、肩の力がふっと抜けた。うん、大丈夫。きっと出来る。
「よし、じゃ向こうに立て」
「はいっ!」
背筋を伸ばしてスクリーンの前に立つ。相変わらず胸の鼓動は早いままだけど、市来さんだけに集中する。
「お、いいな。服もメイクもイメージ通りだ」
ファインダー越しの私はどう映ってるんだろう? カメラを構えた市来さんを見ながら、そんな事を考える。
私が物思いに耽りそうになっていると、フラッシュがたかれた。うう、やっぱ緊張するなぁ。