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市来編

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 写真部に着くと市来さんは一枚のDVDを私に手渡した。

「前に撮影した現場の映像だ。モデルの動きや表情を見ておけ」
「はいっ」
「とは言ってもお前が評価されているのは、あくまで‘自然体のどこにでもいそうな’部分だからな。下手に意識する必要はない。当日現場で焦ったりしない為に、ま、下見みたいなもんだと思っておけばいい」
「分かりました」
「後は社長が講師を連れてくるから、姿勢やポーズについて学んでおけ」
「はいっ」

 威勢よく返事をすると(返事だけでもせめて……ね)市来さんは満足そうに微笑んだ。

「じゃ、俺は次の仕事があるから出るが……今回の企画、ある意味面白くなってきたと思ってる。頑張れよ」
「は、はいっ!」

 もう一度にっと笑うと、市来さんは機材を持って写真部を出ていった。
 面白くなってきたと市来さんは言うけれど、私は面白さなんて微塵も無くて相も変わらず動揺しまくってるんだけど。でも、やるからには精一杯の成果を出したい! 姿勢や少しの表情、角度で人は随分と見違えるものだって社長は言ってた。講師の先生に色々教えてもらうぞー!
 
 気合いを一つ入れて、私は凛と背筋を伸ばした。


作品名:市来編 作家名:有馬音文