市来編
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「しっかしお相手も随分今回は本気だして来たなぁ。モデルの買収だけじゃ飽き足らず、か」
「こんな事ってやっぱり普通はない事なんですか?」
写真部へと向かうエレベーターの中、市来さんがそうごちるので私も思わず聞き返した。
「ま、新製品の情報が漏れるなんていうのは‘ある’話だが――ここまでするのは中々ないな。金もかかるし、ただ単に出し抜きたいとかそういう部分を超えてる。嫌がらせみたいなもんか。陰湿だねぇ、秀麗は」
「そう……ですよね……」
本当にどうしてこんな事までされなきゃいけないんだろう。皆必死に取り組んで、少しでも良い物をお客様に――って真剣に仕事してる。それは当然秀麗の社員さんだってそうだろう。だったら秀麗の社長さんだって秀麗の社員さんをもっと信頼すべきだわっ! ライバル会社にこんな卑怯な手を使うなんて……。うちの社長はああいうタイプだし、怖いけど……でも社員みんなの事を心から信頼してくれてるし……。
「眉間」
「え?」
「皺、すっごいぞ」
「えぇ!?」
市来さんに指摘され、慌てておでこを手で隠す。う、色々考えだしたらムカついてきちゃって……。知らない間にすんごい顔してたみたい。
「シーサーみたいだったな」
「し、しーさー……シーサーってでも可愛いですよねっ!」
我ながらわけのわからない受け答え。うわー、もう、どういう顔してたのよっ! 般若とか言われなかっただけマシかしら……。
「いくら俺でもシーサーを化粧品メーカーのポスターには仕上げられんからな」
「……分かってます」
本気なのか冗談なのか、時々市来さんの考えている事は分からない。でも、とにかく眉間に皺を寄せて小難しい事を考えるのは止めておけって事なんだろう。考えたって私には分からないし、それよりかは少しでも自分を魅力的に見せる方法にでも労力を使った方が、よっぽど生産的だ。