市来編
***
終業後――カレンに話を聞いてもらおうとしたけど、今回の急な対応に追われているのか忙しそうに走り回っていて、とても私の相手をしてもらえる所ではなかった。
しょうがない、と帰ろうとした所にタイミングよく白波瀬さんからお食事のお誘いのメール! 二つ返事でOKし、待ち合わせ場所へと向かった。
「えぇ!? 葉月さんがモデルをされるんですか!?」
「そうなんです……」
この前と同じレストランに入ると、注文もそこそこに私は白波瀬さんに今回の事を伝えた。とにかく誰かに話を聞いてもらって、少しでも落ち着きを取り戻したかったのだ。向かいに座った白波瀬さんを改めてみると、顔立ちが本当に整っている事が分かる。初めて会った時もカッコイイって思ったけど、やっぱり凄いカッコイイ。うちの社長や市来さんもカッコイイけど、その二人とはまた別の柔らかさを持ったカッコよさと微笑みに今日も癒されてしまう。なんて観察していると、白波瀬さんが驚いた様子で口を開いた。
「いやぁ、凄いですねぇ!」
白波瀬さんはそう言いながらも目を丸くしている。そりゃそうよね、だって素人の私があの美成堂の――自分でもまだ何かの冗談なんじゃないかって思うもの。
「何かの冗談かな、とも思うんですが」
「いやいや、葉月さんはとても可愛らしい方ですから」
白波瀬さんが真面目な顔でそんな事を言うので、思わず頬が紅潮する。
「で、でも」
恥ずかしさを紛らわせようと何かを言おうとしたものの、うまい言葉が出てこない。
「美成堂さんの商品は素晴らしいですからね。きっと葉月さんにも良くお似合いなんでしょうね」
「えっと……私はともかく――商品は素晴らしいんですよ! こんな私でも変身! って感じにしてくれるんです」
「あはは、メイクの最大の楽しみですよね。葉月さんはポスターではどんな化粧をされるんですか? 女優みたいな感じとか?」
こんな私がモデルだなんて、もっと変な態度を取られちゃうかな、ってちょっと心配してたりもしてたけど、白波瀬さんは相変わらず柔和な雰囲気を醸し出したままだったから、ほっと安心する。
「いえ、もっと自然な感じです。メインはコーラル系のリップグロスなので、他の化粧もそれに合わせて……。あ、でもナチュラルなのにいつもと全然雰囲気が変わるんですよ〜!」
「それは凄いですね! いやぁ、ポスターの完成が待ち遠しいです! あ、今のうちにサインもらっておこうかな?」
「もう! からかわないで下さい!」
なんて話していると、さっきまでの混乱と緊張が少しずつほぐれていく。やっぱり誰かに聞いてもらうと、気持ちが楽になったり切り替わったりするよね。今日、白波瀬さんに会えて良かった……。
「ははは、いやでも本当に楽しみです。頑張って下さいね!」
「有難うございます!」
優しい表情で応援してくれる白波瀬さんを見ると、何だか本気でやってみよう! なんて思えてきた。私ってほんといつもながら単純というかなんというか……。
でも自分に出来る事なら何でも全力投球しなくちゃ!