市来編
「白波瀬さんはどうですか? お仕事順調ですか?」
「そうですねぇ、ボチボチ――ですかね。葉月さんは具体的にはどんな事をなさってるんですか?」
「あ、私は今は新製品の開発の映像部の方にいます」
「ポスター撮影とか?」
「そうです。分からないことばかりですけど、楽しいです!」
「いいですね。仕事が楽しいと感じられるのは本当に素敵な事ですから。新製品だとヒットした時の喜びもなおさら大きいですし」
ヒットした喜び――うん、味わってみたいな。ていうか味わえなかったら私の就職戦線も終了なんだけど……。そんな事を考えつつも、白波瀬さんとの会話が楽しくて、自分の気持ちが言葉となってどんどん溢れ出てくる。
「今度の新製品はまだ開発段階なのに、思わず欲しくなってしまう商品で。完成が今から楽しみなんです」
「素敵な商品なんでしょうねぇ」
「はい! とっても魅力的なリップグロスなんです!」
「ふふっ、楽しそうで僕も関わりたくなっちゃいます」
「私も白波瀬さんみたいな方とお仕事出来たら、凄く嬉しいんですけど」
私がそう言うと、白波瀬さんは一瞬目を伏せた――ように見えた。けど、気のせい、かな?
「うちに来ませんか?」
「え?」
「なーんて、僕が社長だったら言えるんですけどねぇ」
そう言って苦笑する白波瀬さん。なんだか胸の奥でドクンと音が鳴った気がする。
「そう言えば白波瀬さんはどちらの会社なんですか?」
「いや〜、美成堂さんの前ではもう弱小も弱小なので。内緒にさせておいて下さい」
「そんな事……」
「でもっ! 心意気だけは負けてませんよ〜」
「あははっ」
白波瀬さんと話しているとリラックスしている自分がいる。
その後も会話は弾み、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、私と白波瀬さんは楽しいひと時を過ごした。