春日編
ひらひらと手を振る社長は閉まるドアの向こうに消えてしまい、私は秘書室、廊下、エレベーターと、ずっと春日さんに手をつながれたまま歩くはめになった。
どうしよう、すっごい恥ずかしい。けど、さっき私の事水那って名前で呼んでくれた―――
ふと顔を上げると、春日さんも私の方を見ていて、ニッコリ笑った。
「っ!?」
どっ、どうしよう! なんて可愛い笑顔なの!?
今まで見てきたどんな営業スマイルも比較にならない位の笑顔で、私は顔が熱くなるのが分かった。
胸の鼓動が収まらない。
どうしよう、私、完全に春日さんに恋したみたいだよ。
「正直、あんたぼーっとしてそうだし、仕事が出来るなんて思ってもなかった。けどさ、あんなに真剣に仕事に取り組む人、初めて見た」
「あ、ありがとうございます」
「僕、あんたのことがもっと知りたい」
「え?」
「一人が気楽だし、誰かと慣れ合うなんて絶対嫌だと思ってたのにさ。こんなに他人が気になるなんて、どうかしてる……だからさ、責任、取ってよね?」
「あ……」
さっき社長が言っていたのはこの事だったんだ。
春日さん、私の事を気にかけてくれてるって事だよね? 少しは期待してもいいんだよね?
「悔しいから二度と言わないから、ちゃんと聞いてて」
「はい」
「僕、あんたの事が好きみたい」
「!? う、わ、わっ! 私も! 私も好きです!」
丁度営業部のドアの前まで着た所で、私は真っ赤な顔で春日さんに気持ちを伝えた。
ガチャリとドアノブに手を掛けた春日さんが、一瞬こちらに視線を寄越してまた笑った。
「当然」