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春日編

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「葉月さん、素晴らしい説明でした」
「―――ありがとうございます」
「そうですね……僕はあなたに嫌われて当然の事をした。今更言い訳をするつもりはありません。どうか、美成堂の社員になって、あなたの力と魅力を発揮して下さい。ライバルとして、また、お会いしましょう」

 やっぱり寂しそうに言うと、白波瀬さんは私に背を向けた。
 何でだろう。裏切られたのに、この人を心の底から嫌いだと思えない。

「白波瀬さん!」

 気づいたら私は声を上げていた。
 私の呼びかけに足を止める白波瀬さんは、肩越しにこちらを見てくれた。

「私、あなたに励ましてもらって本当に嬉しかった。あの言葉が嘘だったなんて思えない……まだどうなるか分からないけど、もし、私が美成堂に入社出来たら、その時は秀麗のライバル社の社員として精一杯頑張ります! ありがとうございました!」

 何を言っているんだろう? 自分でもバカだなって思うけど、でも、感謝しているのは本当なんだもの。
 白波瀬さんは小さく頷くと、今度こそ私の前からいなくなってしまった。
 彼の本心は分からないけど、きっと何か理由があったはずだ。でも、今度は正々堂々、戦いたいな。

「こんな所にいた」
「あ、春日さん」
「もうすぐ終わるから、会場に戻りなよ」
「はい」

 やれるだけの事はやったよね?


作品名:春日編 作家名:有馬音文