春日編
ファッションショーも無事終わり、次は各会社のプロモーション。
次々と会社の代表の人が堂々と大勢のギャラリーを前に商品説明を進めて行く。もうすぐ美成堂の番だ。
「あんたが説明するんだよ」
「えっ!? 私が、ですか!?」
やっと涙が落ち着いたと思ったら、今度は春日さんにとんでもない事を言われて後ろに倒れそうになった。
でももう、春日さんの中では私が説明をすることで決まっているみたいで、それ以上は何も言わせない雰囲気でファイルを手渡された。
「短い期間だけど勉強したんでしょ? それにこの商品がヒットしなかったら、あんたうちの社長の丁稚なんだからさ。死ぬ気でやってみれば?」
そ、そうなんだけど……でも―――。ううん。やるしかない。白波瀬さんに騙されていた事はショックだし、商品の情報を漏らしていたのは私なんだ。だからこそ、私がここで踏ん張らないと意味がない。
『最後は、美成堂の商品説明に入ります!』
「私、やります!」
ファイルをしっかりと握りしめ、私はゆっくりと壇上に上がった。
こほん。と一つ咳払いをし、ゆっくりと周囲を見回す。と、白波瀬さんと視線が合った。静かに私の方を見つめている。
負けるもんか。
「初めまして、美成堂の葉月です。私の方から、新商品の説明をさせていただきます。……私は化粧品を買う時に、美容部員さんがいるようなお店で商品を選ぼうとすると、少し気後れしてしまいます。目的の物以外にもあれこれと進められてしまうんじゃないか、と戦々恐々と言いますか」
ここで会場では僅かながら笑いが零れた。といっても馬鹿にしているようなものではなく、私のいかにも小娘といった迷いを微笑ましく受け止めてくれるような、そんな笑いだ。
「かといってドラッグストアなどで購入すると、たまに色味で失敗する事があるんです。ここにいらっしゃる皆様にとってはパーソナルカラーなどは当たり前の知識でしょうが、一般の方にはまだまだ浸透しているとは言い難いです。自分が気に入った色であっても、肌質や肌色などで似合わないという事は、よくある事だと思うのです。かといって試供品が目の前に出ていても、ゆっくり試せなかったり人の目があったりします。人前で化粧をするという行為、これもやっぱり少し恥ずかしいものです」
また少し会場が微笑む。その穏やかな雰囲気に、私はこの場に圧倒されずに言葉を紡ぎ続ける事が出来る。
「そこで考えたのがこちらの冊子です。画面をご覧ください。このように冊子の中は様々な肌のサンプル写真が載っています。およそ日本人であればこれだけの肌色があれば、どれかは自分の肌に近い物が見つかるはずです。これを使い自分の肌と身比べ、考察し、試供品とともに本来合う色というのを探し出せるように―――これが美成堂が打ち出した販売プランです。美成堂はこの冊子を各販売店舗に無料で配布します」
会場がざわめいた。
「私ども美成堂は、一人でも多くのお客様が気構える事無く、美成堂というブランド名で敬遠するような商品を作りたいとは思っていません。誰もが美しく、女性としての特権を楽しめる。そんな商品を作って行きたいと考えています。―――以上、終わります」
終わった。
やっと、全部終わったのだ。
春日さんの隣りに戻ると、
「良くやったね」
小さな声で、でも確かに春日さんに褒められた。
会場を出て、廊下で一息吐いていると、白波瀬さんが現れた。