春日編
「―――そん、な……」
「とっても簡単にしゃべってくれて、こちらとしては助かったよ。本当にありがとう、葉月さん」
「嘘……今までの事、全部、私を騙す為の嘘だったんですか……?」
一瞬、白波瀬さんが悲しそうな目をした。
「そうだよ。君が御影山と出てきたバー、あそこは僕も良く行くって言ったよね? ちょうど君達がバーから出て来るのを、一緒に食事をしたレストランから目撃したんだ。御影山とは昔から色々あってね、君のことが気になって調べさせてもらった。美成堂に研修生として入ったと分かって、あの日、本屋に入る君の後をつけた……その後の事は君も知っている通りだよ」
「ふざけるな!! あんた、確かに御影山社長とは仲が悪いし、僕もあまり好きじゃない! だけど、こんな卑怯な事をする人だなんて思わなかった!」
「卑怯? 戦略的商戦術と言ってもらいたいな。春日君、僕達の業界は情報戦、そんな事は君だって十分理解しているだろう? さ、ギャラリーも困惑している事だし、そろそろこの話しはやめようか―――それじゃあ、またね。葉月さん」
いつものあの優しい笑顔で、白波瀬さんは人ごみの向こうへ消えてしまった。
ポロリ―――
涙がこぼれた。
あんなに優しく励ましてくれていた言葉や態度の全てが偽りだったなんて。
「泣くな」
!?
「絶対に秀麗なんかには負けない。僕がついていて負けるはずがないんだから、さっさと涙をふきなよ。堂々として、前を向いて」
「は、はい」
そうだ、こんな時に裏切られたなんて一人で落ち込んでる場合じゃない。私はここに、仕事をしに来ているんだ。