春日編
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家に帰るとくたくたで思わずベッドに倒れこんだ。
結局あの後デパートの閉館時間まで色々見て回った。春日さんがタクシーチケットをくれて、それに乗り込んで帰ってきたら午後九時過ぎ。こんな事社会人なら当たり前の事なんだろうけど、あまりにも緊張が続く場面が多すぎて、精神的な疲労がピークって感じ。
ふと、白波瀬さんの顔が浮かんだ。整った顔立ちに優しい雰囲気と穏やかな声――ちょっと電話かけてみようかな、迷惑かな……。なんて思っているとタイミングよく携帯が鳴った。表示を見るとそこにあった名前は何と白波瀬さん! 運命的なものすら感じて、私は意気揚々と電話に出た。
「もしもし」
『こんばんは、白波瀬ですけど今いいですか?』
「はい、私も今ちょうど電話したいなって思っていたところだったんです」
『僕に? 嬉しいな』
電話越しの白波瀬さんの声は落ち着いていて耳に心地が良い。緊張していた心がふっとほぐれていく気がする。
『何かいい事でもありました?』
「え?」
『なんとなく、声が弾んでいる気がしたから』
白波瀬さんと話しているのが嬉しいんです――なんて恥ずかしくて言えない。だから今日の話をする事に内心でそっと決める。
「今日会社の人とデパートに行ったんです。それで来週の新作発表会のドレスとか色々見立てて貰いました」
『そうなんですね。来週の発表会は僕も参加します。ドレス姿の葉月さんにお会いするの楽しみにしてます』
「白波瀬さんもいらっしゃるんですね! うわぁ、私もすっごく楽しみです」
『ふふっ、僕もおめかししていきますから』
おめかし、という言葉が可愛くて自然に笑顔が零れてしまう。
「そういえば結局白波瀬さんの会社を知らないままなんですけど」
『当日になれば分かりますよ。大丈夫、美成堂さんならすぐに見つかられますから。葉月さんが僕を見つけられなかったとしても、僕の方から伺いますよ』
「ふふっ、はい! 楽しみにしてますね」
『これからは当日まで僕も忙しいので、中々会えないと思いますが――お互い頑張りましょう!』
「はいっ!」
互いを励ましあい、来週の新作発表会での再会を約束すると私達は電話を切った。
新作発表会、楽しみだな。
緊張もすごくするだろうし、それまでにまだまだやらなきゃいけないことは山積み……。
――それまで自分のできる事を精一杯頑張るぞ!
気持ちも新たに私はそっと眠りについた。