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春日編

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***

 そんなこんなで会社も終わり、私と春日さんは連れ立ってデパートへとやって来た。
 妙な感じ。仕事の時は2人でデパートとか歩いてても何とも思わないのに、何でだろう?
 私の前を歩く春日さんは手慣れた感じでレディスファッションの店を物色している。―――不思議と似合うし。

「ちょっとこれ、試着出来ますか?」
「はい、どうぞ」

 私の事はまるで無視で、春日さんはお洒落な服が揃っている店舗に入り、何着か服を選ぶと私を振り返った。

「着替えてきて」
「うぐ……」

 にっこりと例の如く天使の笑顔で言われ、私は黙って頷いた。
 試着室に入って春日さんが選んだ服をまじまじと眺める。

「―――なんかセンスいいけど、私じゃきっと選ばない感じの服だな」

 淡いグリーンのワンピースで、全体的にやわらかなプリーツ加工が施されている。私だったらこの隣りにあったピンク色を選ぶかな。
 取りあえず着てみよ。

「着替えました」

 試着室を出ると、春日さんは女性店員さんと会話に花を咲かせていた。どうやらさり気なくうちの新製品を売り込んでいたようだ。さすが営業期待の星、こういう所でのセールストークも大事なのね。勉強になるわ。

「わあ、よくお似合いですよ」

 店員さんは笑顔で私を見て言った。まあ、自分でも色といい、雰囲気といい、意外と私の顔に合ってていいかな〜。なんて思ったんだけど。
 春日さんはというと、無言でじっと私を見て、

「もう一着のほうも着てみて」

 なにそれ? 何か感想はないものかしら? ちょっと寂しいけど、まあ、付き合ってくれてるんだから文句言えないよね。
 仕方なく私はもう一着の服に着替えることにした。


 「―――着替えました」

 今度は先ほどとは違って、焦げ茶色のワンピース。体のラインがちょっと出るから誤摩化せない感じ……
 恐る恐る出ると、春日さんはしげしげと私を眺めた。
 本気で何か言って欲しいんですけど、また無言ですか。
 店員さんはまた褒めてくれている。さっきのに続いて、こっちも意外と似合ってるのよね。自分で買うときはどうしても好きな色になりがちだけど、こうやって人の意見(?)を参考にすると、化粧と同じで自分に合った色が分かっていいかも。

「―――これ、ください」
「はい、ありがとうございます」
「え?」

 感想も何も無く、“これください”ですって。ホントにオレ様だわ。少しも私に意見を求めないなんて。

「あ、あの。春日さん……」

 私の背中を押して試着室に戻そうとする春日さんを肩越しに振り返る。

「何?」
「えっと、この服でいいんですか?」
「僕がいいって言ってるんだから、いいの。ほら、早く着替えて」
「はい」

 着替えて出て来ると、春日さんは自分の財布からお金を出して支払いをしていた。

「か、春日さんっ! 駄目です!」

 何で春日さんがお金払ってくれてるのよ!?

「うるさいよ。社長に後で請求するからご心配なく」
「あ、そ、そうなんですか?」

 それならいいんだけど……

「次、靴」
「あっ、はい」



 こういった感じで、私と春日さんの不思議なお買い物は進んで行った。 
 

作品名:春日編 作家名:有馬音文