春日編
6
新製品の情報が漏れているという衝撃の事実を聞いてから一週間後、春日さんと私は新しい製品のアプローチ方法についての説明を開発担当者から聞いていた。
私たちがゲットした秀麗のサンプルを元に新しい色を2色ほど追加して、お客さんが自分で自分に合った色を探せるように肌色とどの肌色にどのグロスが合うかという小さい冊子を店頭で商品の横に備え付けるというものも作った。これは営業もぐんとしやすくなると、春日さんも嬉しそうだった。
「新作発表会までもう日にちもないし、最後の追い込みに入るよ」
「はい!」
春日さんにハッパをかけられ、私は気合いを入れる。
秀麗には絶対に負けないんだから!!
営業は以前よりもさらに力が入り、新しいツールも出来たおかげか、行く先々でよい感触を得る事が出来た。まあ、春日さんの営業力が一番功績を上げる要因である事は間違いないんだけどね。
今日の仕事も一通り終わり、会社へ戻ってきた私たちは営業部で今日の報告書を作っていた。と、
「ねえ、ちょっと」
「はい?」
春日さんに呼ばれた私は手を止めて立ち上がる。
「新作発表会が来週あるけど、あんたと僕で行くことになってるから」
「はあ……え? 私が、ですか?」
「社長が忙しくて出席出来ないらしくてさ。あんたの勉強のために連れて行けって。本当、面倒臭い。僕、ああいう場所嫌いなんだよね、一々作り笑いしないといけないしさ。……で、一応ドレスコードかかってるから、それなりの格好してきてよね」
「えっ!? ドレスっ!? そ、そんなの持ってませんよ!」
どうやったら一般庶民の女の子が22年の人生でドレスを着ることがあるのよ! ピアノの発表会くらいしか思いつかないわ!
「別にゴージャスなドレスを着ろって言ってる訳じゃなくて、小綺麗な格好しろって言ってるの」
「いや、だからその小綺麗な服を持ってませんって」
「はあ……」
また呆れたって顔してるわ、この人。
深〜くため息を吐くと、春日さんは腕時計を見た。
「今日はこの後何かあるの?」
「え? ありませんけど……」
悪かったわね、彼氏もいない寂しい女で。
「じゃあ会社上がったら服買いに一緒に行ってあげるから、僕が終わるまで待ってて」
へ?
一瞬春日さんの言っている言葉が理解出来なかった。
一緒に服を買いに行ってくれる? どうして? 服くらい自分で買いに行けるわよ!
と言おうとしたら、
「僕と一緒に会社の代表として出席するんだから、あんたは会社の顔になるの。それなりの格好してもらわないと、僕が社長に恥をかかせることになるんだから、僕が選んで当然でしょ?」
「―――はあ、おっしゃる通りで」
「分かったら終業時刻までちゃんと仕事をする」
「はい」
なるほどね、新作発表会なんて行った事も無い私が一人で服を選んで、ヘンテコなことにならないように自分で選ぶってことね。
なんか普通だったら男の人と一緒にショッピングなんて嬉しいだろうに、素直に喜べないのはどうしてかしら。